研究概要

 本研究領域では、未開の多成分系状態図の中央近傍の化学組成を持つハイエントロピー合金を研究対象に,それらが示す新奇で特異な材料物性を(1)物性解析,(2)材料設計, (3)材料創製という3つの研究項目のもと,実験と理論計算にまたがるさまざまな分野背景を有する研究者が最先端の研究手法を駆使し連携して,ハイエントロピー合金に特有のハイエントロピー効果の本質を明らかにし,多様な構成原子間の非線形相互作用(カクテル効果)に潜む新たな材料科学の学術領域を打ち立てることを目標としています.これにより,金属・合金やセラミックス等の材料科学及び関連学問分野に従来の延長線上ではない飛躍的な発展をもたらすとともに,新奇で優れた特性を持つ材料が見出される可能性も高く,社会と産業界にも極めて大きなインパクトを与えることが期待されます.
 ハイエントロピー合金の構造・相安定性と新規な力学・機能特性の出現メカニズムに関する新学理創出と新構造材料創造に挑戦するため、「A01 特性」「A02 計算」「A03 材料創製・組織」を推進する3 つの研究グループを組織しています.A01 は力学物性と新規材料特性を実験解析し特性発現メカニズムを明らかにする2 計画班,A02 は力学物性と相安定性の原理をそれぞれ計算科学により解明する2 計画班,A03 は先端プロセスを用いた材料創製と相安定性の実験的解明を行う2 計画班より構成されており,これら6 計画研究班の緊密な相互連携に加え,計画班には含まれない研究項目をカバーする公募研究が各計画班と有機的に連携し,総括班の研究支援・国際交流支援体制の下,一丸となって領域研究を力強く推進していきます.

 ナノ・マイクロ力学特性評価法,走査透過電子顕微鏡法,シンクロトロンX 線回折法,3 次元アトムプローブ法などの先端実験手法を駆使して,力学特性,耐食性,磁気・電気特性など広範囲の材料特性を視野に入れつつ,金属・合金のみならず金属ガラス,セラミックスやその多孔質・ヘテロ構造化まで拡張し,普遍的で広範な材料においてハイエントロピー効果に基づいた新規で特異な材料特性を探索し,その発現メカニズムを根源的に解明することを目指します.

 大規模第一原理計算法,分子動力学計算法,モンテカルロ法,フェーズフィールド法,機械学習などの最先端計算科学的解析手法を複合的に駆使し,ハイエントロピー合金の力学特性,耐食性,相安定性,機能特性の予測的な定量解析を実現するとともに,それらの発現メカニズムをハイエントロピー効果の観点から根源的に明らかにすることを通じて,ハイエントロピー合金の設計指針の確立および新奇材料特性の予測的探索を行います.

 種々の先端プロセスを駆使して,ハイエントロピー効果を最大限に発揮するナノ・ミクロ組織やマクロ形態を高度に制御したハイエントロピー合金を作製し,組織形成の過程と機構を解明するとともに,種々の特性を明らかにします.鋳造・凝固,加工熱処理,粉末冶金,3Dプリンティングなどのプロセスにより作製された試料に対し,SPring-8放射光による凝固過程の2D/3Dイメージング,3 次元組織・元素解析,陽電子消滅による空孔濃度と拡散特性解析などの独自の研究手法を駆使して研究を推進していきます.

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