代表挨拶

本研究領域では、ハイエントロピー合金が示す新奇で特異な材料物性を、様々な分野背景を有する研究者の緊密な共同研究を通じて解明し、多様な構成元素間の非線形相互作用に潜む新たな材料科学の学術領域を打立てることを目的とします。ハイエントロピー合金は、狭義には「5種類以上の構成元素から成る等原子分率単相固溶体合金」を指しますが、近年では「多元系状態図中央付近の組成を持つ等原子分率から外れた高濃度固溶体合金や析出物を含む多相合金」にまで研究対象が広がりつつあります。このような広義の意味でのハイエントロピー合金には、低温での異常高強度・高靭性、高温高強度など、従来合金には見られない特異で優れた力学特性を示すものが多く見られます。これらの特異な物性は、多様な構成原子間の相互作用による単純な混合則では表現できないカクテル効果に起因すると考えられ、この物性発現メカニズムの解明は材料科学・技術における最も挑戦的課題の一つと言えます。この学理を打ち立てることで,従来型材料を越えた新規材料を開発・提供しうる新領域を創成することができると考えています。

上記の目的を効果的に達成するために、次の三つの研究項目を立てて研究を推進します。

  • 研究項目A01 新材料・機能創出と物性発現機構解明
  • 研究項目A02 物性発現モデリングと合金設計
  • 研究項目A03 相安定性原理解明とナノ・ミクロ組織制御

研究項目A01では、ハイエントロピー合金の特異な力学特性の支配因子を解明するとともに、ハイエントロピー効果に基づく新材料創製と新機能創出を行います。研究項目A02では、計算材料科学によるハイエントロピー合金の力学特性の解明と制御を行うとともに、計算熱力学と計算組織学の融合によるハイエントロピー合金設計の加速研究を推進します。研究項目A03では、合金に内在する元素間相互作用と相安定性原理の実験的解明を行いつつ、先端プロセスによるハイエントロピー合金の作製とナノ・ミクロ組織制御に関する研究を推進します。項目を超えた共同研究を通してハイエントロピー合金の学理確立と新規機能導出に取り組みます。

ハイエントロピー合金は、ある1種の特定元素を主要元素として少量の異種元素を添加した従来合金(Ni基合金、Al基合金など)とは全く異なり,これまで探索が行なわれなかった未開の多元系かつ高濃度の化学組成をもつ新規な合金であり,探索を続けることで更に優れた特性を示す未知の合金系が数多く見つかる可能性が高いと考えられます。元素の組み合わせ次第では、組み合わせた元素の種類だけからでは予測不能な物性を発現する「カクテル効果」が生み出され、「1つの主要元素を決めて合金添加により特性制御する」という従来の合金開発手法に代わる、「多元系状態図の中央付近の化学組成から元素と量比の最高の組合せを見つける」というパラダイムシフトの出発点となり得ると考えています。

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